「エコノミークラスアニマル」 作) あさくら ある日、三大新聞の社会面に、こんな見出しが横たわった。 ――大好きな夏休み「家でゴロゴロ――67%」。 ニッポン人は、いよいよなにが楽しくて生きているのか分からなくなってきた。 思えば「経済大国」、「気遣い外交」などとヨイショされては、世界の国々から、途方もない金と物資を巻き上げられてきた。あげく、アイデンティティーすら捻じ曲げて、イラク派遣までやってみた。ところが、そこまでしてもなお、「敗戦国」、「平和ボケの島国」として、ニッポンの意見など誰も聞かない。 「タカシ、いつまで食べてるの!」 足立区のアパートにて、ある主婦がグズな息子をせき立てて、ようやく玄関の外へと放り出した。乳バンドのホックのあたりをボリボリとやりながら、狭いキッチンに戻る。息子が残したパンの耳をかじり、新聞をぺろんとめくった。 ――国連負担金だけで毎年380億円超。すでに国庫は火の車であるのに、ODAの支払いが毎年1兆円、円借款残高が11兆円を超え――。 ――地上波でのテレビ放送は終了します。地デジ用チューナーの購入はいますぐ! 咥えていたパンの耳が、ポソリと落ちた。 「これって――詐欺じゃない!」 全国五千万の主婦が、雄叫びをあげた。列島が覚醒した瞬間である。 発足して間もない田中(マ)政権は、ただちに緊急閣僚会議を招集。わずか5分で、閣僚たちはパチンコ玉みたいに次々と飛び出し、成田国際空港に突っ走った。お得意の国外逃亡である。 数日後、T大の地震科学研究所が、海洋プレートの活断層を片っぱしから吹き飛ばした。断層は凄まじい勢いで地すべりを起こし、剥離され、列島は園児の乳歯みたいにぐらぐらっと揺れた。 ――エコノミックアニマル、過労の末の最後っ屁。医者はどこだ!? <ワシントンポスト誌> 世界は笑い転げたものである。 それから一週間後、世界の枢軸、アメリカ合衆国がもんどり打った。 第一報を受けた首席補佐官が、大統領執務室に飛び込んだ。 「おいジョージ。えらいことになった。パールハーバーがジャップの手に堕ちた――」 テキサス選出の大統領は、ケツの座りが最高の椅子にふんぞり返り、最高級の絨毯に、噛みタバコをぺっとやった。 「マイク! お前はイラクでもそうだった。胡散臭いコールガールに、また一杯喰わされたんだよ。考えても見ろ。ハワイには強大な太平洋軍がいる。日本には第七艦隊や陸軍もだ。それとも連中は、マスをかくのに忙しかったのか」 「うむ。ともかく問答無用で最寄りの基地に逃げている。ワケも分からず――といった具合だ」 「カモン、マイキー! そのゴタクをまだ続けるつもりか。いいだろう、すべてを終わりにしてやる。いいか、万が一にもそうなったら、話は簡単だ。イエローモンキーの赤いケツにICBMのデカマラをブチ込んでやればいい。こいつはウケるぞ。選挙も近いしな。かぁあぁぁっ、ぺっ」 「キミは相変わらず水牛のクソ頭だな。いいか、よく聞きたまえ。腰抜けの国際法規によれば、つまり、そいつは侵略行為となるんだ」 「おい。まさか――」 ジッと佇むマイクの顔が、洗い忘れの靴下をクンクンしたネコみたいになった。 やにわに真実を悟った途端、ジョージの顔も発情したメスブタのケツのようになり、これでもかとデスクを殴りつけた。 「このオカマ野郎! ビビってタマ落としたか。いいからブチこめ。侵略されたのは我が国だ。ケツにキスしろ!!」 とはいえ、アメリカはむむむと唸った。 独立国家には、一定の不可侵的統治領域が約束される。ニッポン国は、国民と領土をそのままに、太平洋上をへろへろと泳いで、パールハーバーに接岸していた。これにより、ニッポンは暫定主権が成立したと宣言したのである。 この「暫定」や「宣言」といった概念に、これまで、どれだけ苦しめられてきたことか。 ――国際社会の寄生虫ニッポン。ついに宿主アメリカを喰らいはじめる <人民日報誌> アメリカはすぐさま国連安保理を召集した。 ここでの決定事項は、国連に加盟する192カ国すべてが遵守する義務を負う。この厳粛な議場にやってきた代表たちは、どれも面倒くさそうに尻を掻き、あるいは下品にゲラゲラと笑い転げていた。 「それをやられちゃ、手も足もでないな」 「でもあれだ。公海上を航行する船舶と借定すれば――」 「いやいや。これは既存法の射程外だ。前例がない国境の再設定は時間がかかるよ」 「Holly dog shit!!」 アメリカ代表は席を蹴った。もとから陰険な顔をしている彼は、トレードマークの銀縁眼鏡の奥でギラギラと目を剥き、白髪を掻き毟り、毎度のごとくぶち切れた。 「そもそも浮遊物などに統治主体性は認められん。あれはゴミクズだ。好きに処分させろ!」 すると、おしとやかに手を上げる者がいた。非常任理事国のギリシヤである。法と自然哲学をこよなく愛する国民代表は、両手を高々と天にかかげ、まず真理を問うた。 ニッポンが独立国家であるのは、オリュンポスの神々もご存知の通り。これが元気に泳ぎはじめたからといって、ただちに主権を奪うのは、主権在民という統治秩序そのものを永続的に放棄することになる――といった具合である。 「なんだか、その通りだ」 パラパラと拍手が沸いた。みんな、よく分かっていなかった。 「Goddamn! もはや貴様ら汚れスキンに用はない。我が国だけで解決する。ガンホーガンホー」 お得意の武力行使を匂わせる。どの代表も、たちまち目を吊り上げた。小声がさざなみのように広がり、「イラクでまだ懲りてねえのかよ」と、次々とツバを吐いたものである。これが精一杯の抵抗だった。 やがて五大国の一角、強大な議決権を持つロシアが立ち上がった。ハスキーボイスで巻き舌全開。氷の上をすべるようにまくし立てる。 「貴国の態度は、正当な理由を欠く侵略行為であると認識する。よって軍事行動が認められれば、これを停止条件として、即時、留保なしに、全面制裁を発動するものである。すぱしーば」 モーレツな拍手喝さいが広がり、議場を揺るがした。はじめて世界がひとつになった。 なかでもロシアと中国は、排他的経済水域が広がって有頂天である。このままニッポンが帰ってこないなら、なんでもしちゃうと小躍りしていた。 ――米国代表、やはりBSEか。泡を吹き、ロシア代表の股間に噛みつく <共同通信> 国際社会がすったもんだを続けるなか、ハワイでのバカンスを堪能したニッポンは、ふたたび航海の旅にでた。 ホワイトハウスは罵声と猥談が飛び交う夜のスラム街と化した。 「ファック! あのチョンマゲどもはなにを考えてる。ガッデム。国際世論などセイウチのケツにでも突っ込んでおけ。迎撃準備だ。フジヤマに新しいカマを掘ってやる!」 こうして全土にデフコン1を宣言。臨戦態勢でこれに望んだ。もちろん、ニッポンの進路に最新鋭の艦隊を投入することも忘れなかった。核弾頭をこれでもかとちらつかせ、極東の島民どもをチビらせようとした次第である。 数時間後、洋上で待機していた、戦略的原子力空母リンゼイ・ダベンポートが動きを見せた。 「レポート! 腰抜けジャップの陸影を探知。距離一万五千!」 ブリッジにはケネディー一族の血を引く、猛将アンドレの姿があった。士官どもの怒号が飛び交う艦内で、ひとり、悠然とパイプをくゆらせ、ミラーグラスをくいくいっとやった。 「来たか臆病マラどもめ。僚艦の原潜ウイリアムズ姉妹に伝えろ。内容はこうだ。オレ様のケツにつき、ファックなサーブでサルどもを昇天させろ」 「アイサー!!」 「レポート! 総司令部より特別緊急指令を受信。認証コード、デルタ、ゼブラ、チャーリー、タンゴ、タンゴ、アルゼンチン、バックステップでランパパン!」 「よし。ただちに発射準備にかかれ。指令どおりに千葉を消す。千葉のくせに東京ドイツ村とは前から気に入らん」 「レポート! 標的内に、離脱したはずの第七艦隊を識別!」 「Oh,baby、ヒヨっ子のジョンソン坊や。アホを言ってパパを困らすな。その節穴にファックしてもいいんだぞ」 提督はサングラスを投げ捨て、レーダーを覗き込んだ。 「ガッデム! 確かにヤツらだ。だが、なぜニッポンにいる。サルのおフェラがそんなにいいのか」 「レポート! 艦隊は房総半島の先端にて座礁している模様!」 「シット。巻き込まれたのか。坊やどもには悪いが、確実に沈めるぞ」 「レポート! ――うわぁあぁあぁぁ。ママ。ボク、悪い夢を見てるの――」 海流に、よっこいしょと乗ったニッポンの速度は、もはや尋常でなかった。艦隊はたちまち安全射程距離を失った。 「ぬおぉおぉぉ! このおフェラザルは回頭運動もできるのか。ケツの穴! 裏からなにかがやってくるぞ。回避だ、緊急回避!!」 隊列はたちまち乱れ、フナムシがごとくおろおろと逃げまわった。 その眼前では、小さくとも巨大なニッポン列島が旋回している。艦隊は、のっそりと姿を現した紀伊半島にひっぱたかれ、荒波にあえぐオットセイのように次々と打ち上げられた。 ――アメリカで反日感情が爆発! それでも新型ハイブリッド車とプレステ4は大絶賛 <ル・モンド誌> 間もなくニッポン丸はサンフランシスコ沖に接岸した。この間、アメリカ政府は手を出せずにいた。先ごろ失った艦隊のせいで、ニッポンは核大国となっていたからである。 上陸だけでも阻止すべく、海岸線では迎撃準備を整えていた。 しかし東京都民だけでも1,300万人を超えている。小さな島国といえども1億2,768万がひしめいていた。 さっそくのこと、関東全域の町内会や農協のツアーが、普段着にサンダル姿で、カメラを提げてどばっと押し寄せた。 「フリーズ! 両手を挙げて、ただちにサル山に帰れ!!」 海岸では、上下左右もないほどに、完全武装の軍隊、保安官、そしてゲーム感覚のハイスクールボーイたちで埋め尽くされていた。星の数ほどの冷たい銃口が向けられ、ガチャガチャと唸ったものである。 ニッポン人は、こうした場合、どうして良いのか分からない。まさに棒立ちといった具合になった。 このとき、群集を掻き分ける、勇猛な男たちが現われた。サンフランシスコの熱い潮風に長い黒髪をなびかせ、ソバカスやニキビまみれの面相をニヤリとやり、陽光にキラリと輝く分厚い眼鏡をくいくいっとやった。 「やっぱそうだ。M60のほか、M249が多いでごじゃる」 「つまりはFNミニミでござるな。あれは自衛隊でも使っている。珍しくもない」 「しからばあれはどうだ。見ろ。デルタフォース!」 「ふうむ。アメリカ陸軍第一特殊作戦分遺隊か。米国特殊作戦司令部に所属。ソマリア内戦ではブラックホークダウンとして従事。アフガン、イラクでも極秘作戦に参加するが、ことごとく失敗。主に海外テロを扱うが、国内の警備や重大事件にも関与している」 「そうじゃない。重要なポイントは、アメリカ政府が、いまだにこれを公式発表していないことだ。それがアンタ、目の前で、フル装備。こんなチャンス、二度とないぞ!」 群集に、不可解なざわめきが広がった。 「へえ。そんなに珍しいの。そうなの。じゃあ――」 カメラを構えると、一斉に何百万というフラッシュが焚かれたものである。しかもやたらに撮り直しているため、いやにしつこい。 「さて、みなさまー。ハリウッドはこちらでーす」 すっかり目を潰された兵士たちは、サンダルとツッカケにあえなく蹂躙された。 これに続き、国税庁、金融庁、中小企業の総務部OLなどがゾロゾロと続いた。いずれもダンボール箱を抱えており、差押えの札や占有権表示の貼り紙が溢れていた。 その最後尾から、勇壮な和太鼓と、ピーヒャララといった軽快な横笛が鳴り響き、核弾頭の山車が運び込まれた。大阪ダンジリ衆が突進したのである。コーナーに差し掛かると、木製の車輪がギャリギャリと砂を咬み、リアが美しく流れ、街燈や消火栓を見事になぎ倒した。サンフランシスコ、シリコンバレー、サンディエゴなどを爆走したおかげで、差し押さえは呆気なく完了した。こうして巨大な税収源を掠め取られたアメリカは、またたく間に疲弊した。 それでも夏のバカンスを取った大統領はたちまち袋叩きにされた。 ――キューバ政府がカストロ議長の緊急声明を発表。『いっそ、平和国家ニッポンが、アメリカを代理統治すればいい。世界紛争の八割が削減できるであろう』 <エル・エコノミスタ誌> これが報じられると、あらゆる国際機関は、なんと全会一致で可決した。ニッポンは温和で話せるが、アメリカは横暴だもんね、というのが採択理由である。本当のところは、アメリカの弱体化にあった。ニッポンが代理統治すれば、平和憲法により、アメリカの核武装はすべて廃棄されることになる。どの国にとっても、これ以上喜ばしいことはない。もっとも、イスラエルだけはブツブツ言ったが、ブツブツ言うに留まった。 アメリカ代表はデスクを引っくり返した。 「このアホマラどもめ。どいつもこいつもド頭かっ切って、聖母マリアのケツに突っ返してやる!」 すぐさま拒否権を発動。ついに本格的な軍事行動に出た。 強大無比な軍勢を、これでもかと投入すると、ニッポンではなく、世界が動転した。どちらかが核を使い、もしくは間違って誘爆でもすれば、第三次大戦を待たずして世界は崩壊してしまうと震え上がった。 「取り急ぎ、サルの島には消滅してもらおう。だがしかし、なんとしても、アメリカを落ち着かせるのだ!」 国際機関はあわてて親米路線に切り替えた。ジャパンバッシングはお手の物。舌先もなめらかである。 その間にも、アメリカは、わずか半日で制海権を掌握。 誰もが、あの懐かしきGHQ時代の再来を疑わなかった。 ところが歴史は思わぬ方向へと歩き始めた。守備に徹する自衛隊のラインが微動だにしないのである。なにしろアメリカ仕込みである。日頃から中国や北朝鮮の脅威にも鍛えられていた。 どうにも攻めあぐねた海兵隊が、お得意の空爆つきゴリ押しに出たものの、ニッポンには本土防衛の実戦経験があった。「カミカゼ」、「ギョクサイ」、「ハラキリザンマイ」と叫んでは、核発動のフェイクをかける。前線に出ているアメリカ兵に、核兵器の見分けなどつくべくもない。ミサイルが登場すれば、それがベニヤであろうが大人のオモチャであろうが、「ジャックポット(大当たり)!」と叫び、脊髄反射で逃げ帰った。 そこで通常攻撃の応酬となったが、ニッポンは農家の夜なべ仕事のように、ちまちまポコポコとこまめに片づけた。 ベトナムやイラクでもそうであったが、アメリカ兵は、地味な反撃に、こよなく弱い。たちまち士気が下がり、アルコールとドラッグ中毒が蔓延。そして情緒不安定で有名なアメリカ国民感情も、ことごとく反戦に傾いたものである。 この体たらくに、国連はすぐさま回れ右。「やるなら今しかねえ」と、アメリカに『ならず者国家』のレッテルを貼った。 「戦争を放棄したステキな国に、なんてひどいことを!」 レバノン問題ではすっかり遅れを取ったイタリアが立ち上がった。かの国の主導で、紛争地向けに特化した国連即応部隊を派兵。さすがのアメリカも国連旗には発砲できず、たちまち蹴散らされた。 「アメリカ秩序が崩壊しました!」 報告を受けた国連本部では、シャンパンが抜かれ、女性職員にヌかれるお祭り騒ぎとなった。創設以来、はじめてアメリカを組み伏せたのである。 間もなく、ニッポン国憲法がアメリカで施行された。 するとCIAは無論のこと、FBI、DEA(連邦麻薬取締り局)までが憲法違反として解体。するとなぜだか、中南米やアフリカの紛争がピタリと止んだ。誰もが「やっぱり」とため息をついた瞬間である。 世界はワッと歓声を上げ、「アキバ、ブルセラ、オカマバー」と喝采を送った。 それからほどなく、世界市民は「うん?」と小首を傾げた。 北米大陸にいたニッポン人が、ことごとく本土に引き上げた。そしてアメリカの統治権と、ようやく手にした常任理事国の大権も、ぺぺっと放棄したのである。 【ロイター発】 ――グリニッジ標準時0:10、チリ沖を航行していたニッポンが大西洋に進路を取った模様。目的地は不明。 ――続報。19:30、南京都市映画村(旧サンフランシスコ)沖から横山やすし級原潜5隻が北極海に向かって蛇行。また核施設「ズンドコ」と「骨まで愛して」が燃料充填作業を開始。標的は不明。 なかでも慌てたのは、大西洋沿いにあり、ニッポン人がこよなく愛する大英帝国だった。躁鬱の激しい首相のトニーは、大好きな精神薬をバリボリとやりながら、昼夜を分けず、執拗に電話をかけまくった。いつもながら、このストーキングに閉口している各国元首たちは、手っ取り早く、こう結論づけた。 「勢い、アメリカの先例をつくってしまったであろう。当面は手の打ちようがない」 どの国も、時間稼ぎに出たのである。島国のもうひとつぐらい、くれてやってもいいという態度だった。 女王陛下の海軍は、ひとまず領海域に定置網をはってはみたが、効果のほどは疑問であった。 ――イギリス全土はナチのロンドン空爆以上の暗黒につつまれている――<ガーディアン誌> そのころ、大西洋をどんぶらこと泳ぐニッポンは、お祭り騒ぎにあった。 有史以来、三度のメシより旅行が好きな国民である。そしてアメリカから莫大な財物を吸い上げることに成功した。なにしろ連中は、国連負担金などの不払い債務がやたらと多い。これらをニッポン債権に充当すると、暮らしぶりは驚くほど豊かになった。年金支給の倍増は当たり前で、医療費の完全無料化、サービス残業の撲滅、そして地デジ用の受信チューナーも無料配布となった。幸せである。 世界には、回収すべき債権がまだまだある。大好きな旅をしながら、援助が必要な国を自分で見極め、物資を送り込む。それでもカネが国庫から溢れ出す勢い。 これぞニッポン本来の姿であった。 翌日、小泉以上の奇人変人、田中(マ)首相が、ついに沈黙を破った。 世界は固唾を飲んでテレビに齧りついた。 「これまで、実に多くの誤解がありました。アメリカ人は、とても親切で、寛容で、美しい心の持ち主でした。頭がどうかしてたのは、ほんの一部のクソバカだけ。思えばニッポンも同じでありました。それもいまではみーんなお陀仏さん」 ガハガハと、豪快に笑ったものである。 そしていよいよ、真っ赤に塗りこめた唇をニヤリと持ち上げた。 「さて、むかしの人はよく言ったんもんだわよ。『商人は、損して幾つか倉が建つ』。毛唐はそのへんが分かってない。私たちは、これまで我慢した甲斐があったというワケであります」 首相はずいと身を乗り出し、チョイチョイとカメラをこまねいた。白塗りの顔がぶわっと拡がった。 「いざ、開国以来の取立てでござる。明朗会計、一括返済。まずはフランスさん。不払い債務が半年複利、法定重利、遅延賠償を含めて5800億ドルですシルブプレ」 その刹那、画面が切り替わり、広大無辺なノースダコタの原野が映し出された。弾道ミサイル、劣化ウラン弾、核廃棄物が、見渡す限り、シロアリの塔がごとく林立している。 そこに、白ずくめの男たちが現れた。ずさんな管理で有名なニッポンの原発職員たちである。彼らの一人が、老朽化した核ミサイルに、「フランス行き」という宛名シールをぺっと貼った。最後はみんなでワインボトルを手にして、ニコニコ顔で手を振った。 「♪ワインは山梨、放射能も無添加♪ お得なキャンペーンも実施中」 フランスはおろか、安保理、そしてEU委員会は、背筋を凍りつかせた。どの国も、必死こいて防衛協定を締結し、部隊の配置まで済ませていた。しかしそれもムダに終わった。 「思えば相手はニッポン人。いわゆるひとつのアキンドで、しかもゴクドー」 「なんてスケールの小さいヤツらだ。考えることはそれしかないのか!」 「いや、これではアメリカより始末が悪い。我々には核抑止力はある。が、返済能力はない」 これまでは、やれ貿易摩擦だ、靖国参拝だと脅せば、ニッポンはスゴスゴと引き下がったものである。そこで借りられるだけ借りて、返すつもりなど毛頭なかった。 しかし解体されたボロクズの核を出されてはグウの音も出ない。 当然ながらこの処理には、算出不能なほどのコストが、将来にわたって延々と続く。撃たれるならまだしも、始末に負えないゴミでもって財政破綻を招けば、真っ先に自国民から吊るし上げを喰らう。そのうえアメリカのように、借金のカタに、観光地をうやむやのうちに毟り取られるくらいなら、死んでも返済しようと、銀行やヤミ金まわりを始めた。 首相演説のあと、CMが流れた。 どんつくどんどん、ぴーひゃらら。 ちゃんとちゃんとの倭寇でごやる 返済計画は事前にチェックよん♪ <了> |