| 「夢幻」 作)東奈 「くぁあぁあああ」 でかいあくびが俺の口をこじあける。 口から魂が抜けるかのように力がぬけていく。 ここに布団でもしいてあれば今すぐにでも倒れこみたい気分だ。 「ふぁ」 なんて馬鹿な考えを小さく噛み殺す。 眠い。 登校中とは思えないくらい、眠い。 「コータ、おっはよー」 これぞ、あさ〜って感じの元気はじける声。 声だけでちゃんとわかる。 斎宮理恵(さいぐう・りえ)、オレの彼女だ。 「うぃ」 振り返り軽く手をあげる。 リエの元気な声で少し目が覚めた。 少しむこうからリエが走ってくる。 今日の髪型は後ろで大きく三つ編をひとつ。 「なぁに、その気の抜けた返事。ちゃんと起きてる?」 オレの目の前まで来て、リエがきゅっとまゆをよせる。 怒ってるような心配してるような微妙なところだ。 「寝てる」 「ちゃんと起きなよぉ。あんまりふらふらしてると車に危ない」 意味が今ひとつわからない。 オレが邪魔で車に対して危ないのか、 それともオレが車にぶつからないよう心配してるのか。 ま、どっちでもいいか。 リエと並んで歩き出す。 頭ひとつ分、オレのほうが背が高い。 ちょっと見上げながら話すリエがオレは好きだ。 「そんなふらふらしてたか?」 「もう、ふっらふら」 大袈裟にリアクションまでつけてくれる。ありがたいことだ。 「なぁに、また寝不足?」 「いや。まぁ、そんなところだ」 言えない。 原因である夢のことは、リエだけには言えない。 「なぁにしてんのよ。夜更かしして」 「まあ、ひとつのアレだ」 「アレ?」 「そうだ。アレだ」 「うっそ。コータってばそんなことしてるのぉ?」 こいつ、何想像してんだ。 「にやり」 「口で言うな」 「すまん」 「ま、寝不足は体に毒だかんね。早く寝なよ」 「へいへい」 「ちゃんと聞いてる?」 「聞いてます」 「ならいいけど」 毎朝、こんなたあいもないことを話しながら学校まで歩く。 この時間が大切だと思う。 隣で少しむくれてるリエが大切だと思う。 この関係は壊されたくない。壊したくない。 だから、夢の話は忘れよう。 アレだってきっと思い過ごしに違いない。 でも。 忘れようと思ったときにはもう思い出してる。 夢を見る。毎晩だ。 内容は少しずつ変わってきてはいるがほとんど同じ。 オレの担任の教師・佐倉を殺す夢だ。 オレがじゃない。リエがだ。 場所、時間、方法、タイミングはいつも少しずつ違う。 リエが佐倉を殺す。 オレはそれを見てる。 リエがオレのほうを見る。 そして言う。 「ほら、コータもころして」 いつもの笑顔で。 いつもの囁きで。 いつものリエで。 言う。 「ほら、コータもころして」 「峰道、峰道」 なんなんだ、あの夢は。 なんであんな夢を見なくちゃならない。 「峰道」 そでが引かれる。 「なんだよ」 「お前、当てられてる」 やばい。 オレは一気に現実に引き戻された。 どこをだ。って言うか今、何時間目だ? 「お〜い、峰道ぃ。授業中に寝とったのかぁ?」 この声は。くそっ、サイアクだ。 「彼女ができて毎晩はげむのはかまわんが授業中くらいきちんと起きててくれよぉ」 鼓膜にからみつく嫌味な声。 佐倉が見下ろしている。 わざとらしく肩をすくめながら。 右手にはチョーク、左手には教科書。 嫌な、嫌な目をして見下ろしている。 「かわいそうよね。峰道君」 「佐倉って斎宮さんのこと狙ってたらしいよ」 「斎宮を峰道に取られて嫌がらせしてんのかよ」 教室の声、耳に入ってくる。 お前らうるせえよ。 「ほぉら、答えてみろ」 「すいません、聞いてませんでした」 「はぁ」 おおげさに溜息をつく。 「おまえなぁ……」 くねくねと首をふる。気持ち悪い。 「俺の授業中まであたまんなか桃色なのかぁん」 何言ってんだ、お前。 「どおせ、昨日のベッドのことでも思い出っ……」 ゴスッ。 硬いものが潰れた音。 佐倉の声が途切れる。 佐倉の顔がフリーズする。 グシャ。 さっきよりも、よりリアルに。より絶望的に。 ゆっくりと佐倉が前のめりに倒れる。 オレの目の前を通り、 ガッ。 オレの机に頭をのせた。 べったりと髪が濡れ頭皮に張り付いている。 頭皮がある所にはの話だ。 頭の後ろの少しでっぱってるはずの部分がえぐれてる。 赤より黒に近い灰色? なんだよ。これ。 そのとき、 ゴシャ。 オレの視界の外から赤いものがそこにつっこんできた。 煉瓦? れんが。 からまる細くて白い指。 続くちょっとつかむだけで折れそうな手首。所々、紅い。 制服の袖。肩、スカーフ。 片手の指が回りそうな首、形のいいあご。 そして、リエ。 これは夢か? いつから夢なんだ? どこから夢だった? リエが煉瓦を振り上げる。しぶきが少し飛んだ。 リエが煉瓦を振り下ろす。温かいものを頬に感じだ。 リエが煉瓦をまた振り上げる。粘ついた音がした。 リエが煉瓦をまた振り下ろす。机が佐倉が大きくゆれた。 リエが固まったままのオレに言う。 「ほら、コータもころして」 やっぱり夢だ。 佐倉の目がにやつきながらオレを見る。 リエがオレに煉瓦を差し出す。 「ほら、コータもころして」 声はいつものリエ。 目も口も鼻も耳も髪もいつものリエ。 少しはにかんだように笑う、いつものリエ。 なのに。なんだこれは。 だから、いったいこれはなんなんだ。 目をゆっくりと開ける。 暗い、真っ暗だ。 焦点が少しずつあってくる。 木目? 机の表面の木目か? どうやら突っ伏して寝てるらしい。 夢。か。 胸がバクバクいってる。 まさか真昼間から。 小さく深呼吸。 と、声が聞こえた。 「だから、理恵って佐倉にセクハラされてるらしいよ」 「ウソ。どんなことされてるの?」 「なんか、最近理恵にばっかり用事押し付けるじゃない?」 「あぁ、それ。私も思ってた」 「そのときにいろいろ触ったりとかしてるらしいんだ」 「前から佐倉の斎宮さん見る目つきおかしかったし」 「やっぱり。でも峰道君知ってるのかな?」 「どうかなぁ? 知らないんじゃない?」 これは夢か? それとも現実か? 何の責任もないたあいもない噂話。じゃない。 やっぱりあれはリエだったのか? あのとき見たのはリエだったのか? そんなわけないよな。 信じたい自分。 でも、もしかしたら。 信じきれない自分。 これが原因か? 現実まで侵食してきた夢の原因はあの光景か? 頭を腕枕からひきはがす。 「わ、起きたよ」 「もしかして聞いてたかな?」 「今起きたばっかりだよ」 さっきの声が小さくなって聞こえる。 ちらちらとこちらをうかがってってるのを感じる。 好奇心がハエのようにまとわりつく。うざい。 リエは……トイレか? それともまた佐倉に用事押し付けらたのか? しばらくリエの姿を探して、そして、あきらめた。 今はリエが近くにいないほうが都合がいいな。 もしリエが傍にいたらすぐ、打ち消してしまうだろう。 リエと佐倉がホテルに入るところを見た。 なんてことは。 ちゃんと確認したわけじゃない。ただ。そう見えた。 それだけの話。 きっと見間違いだ。そうに決まってる。 でも、リエに聞いたらなんて言うだろう? 怒るよなやっぱ。 「おっ、コータ。やあっと起きたな」 この声を聞くとやっぱり打ち消してしまう。 つまらない思い違いなんか。 「あぁ」 リエに限ってそんなことあるはずがない。 「夜更かしして一人であんなことするからだぞっ」 リエがすきなんだ。 信じたい。 リエが本当に大事なんだ。 「なんだよ、それ」 失いたくない。いつまでも傍にいたい。 「あはは、例のアレ」 だから、あの夢もあの光景も早く忘れたいんだ。 「わけわかんね〜」 でも、また、思い出す。 これは現実のはずだ。 きちんと朝起きて、いつもどおり登校し授業も受けた。 夢は姿を変え時を変え場所を変え現れつづける。 でも今は現実のはずだ。夢か? 最近境界線があやふやになってきている。 ちょっと気を抜くとわからなくなる。 現実だと強く念じる。祈る。 「どしたの? なんかヘンな顔してる」 リエが心配そうに聞いてきた。 「あ、悪い。ってなんだよヘンな顔って」 リエは変わらない。 相変わらずよく笑いよく話し、いつものリエだ。 「思いつめたみたいな。ヘンな顔だったよ、いつもどおり」 「オレはいつもヘンな顔なのかよ」 「うん」 「即答すんな」 「でも、そのコータの顔が私は好きなんだなぁ」 顔が熱くなるのを感じる。 リエも少しくすぐったいような顔で笑っている。 「ばーか」 「あはは」 とん、とリエが肩をぶつけてくる。 あぁ、こいつやっぱり軽いんだなとヘンなところで感心する。 軽いから守ってやりたくなるのだろうか。 関係ないか。 「おい、廊下では静かにせんか」 声が聞こえた。 「あ……佐倉」 リエがきゅっとオレの制服のはじを握る。 大丈夫、今なら大丈夫だ。 「まったくたるんどる」 いつものジャージ。いつものだみ声。 「スイマセン」 軽く頭を下げ立ち去ろうとする。 「まったく学校でまでいちゃつきおって」 足が止まる。 「そういうことはベッドの中でだけしてればいいんだよ」 そんなことあんたには関係ないだろう。 佐倉の目が意味ありげににやついている。 意識しすぎか。 それにしても、なんでこいつはオレの邪魔をする? 本当にリエに目をつけているからなのか? くだらない噂 「どうせ帰ったら腰が抜けるくらいしてるんだろう」 鼓膜を打つ佐倉の声。 頭にかっと血が上る。 こいつ、ぶん殴ってやる。 ぎりっ、と音が鳴るくらいにこぶしを握り締める。 そのとき。 すっとリエが佐倉の前に出た。 ごく自然な動作で。 「リエ?」 「なんだ、斎宮」 リエの手に光るものが見えた。気がする。 瞬間。 それは音もなく佐倉のだぶついた腹に吸い込まれていった。 「ぐ」 音。 昔、じっちゃんの家で聞いたかえるの声に似てる。 リエが手を引いた。 黒いシミが青いジャージに広がっていく。 佐倉がシミを手で押さえる。指の間から赤い液体がこぼれだす。 リエがまた手をすっと押し出す。 リエの動きの跡を白い軌跡が追う。 佐倉の真っ赤な手の少し上に滑り込む。 「……」 何かをいいたそうに口をパクパクさせる。金魚みてぇ。 リエが手を引く。 ナイフ? 包丁? リエの手には紅く光る殺意。 滑り込み、残滓を残し、再び外に戻る。 リエは機械的に同じ動作を繰り返した。 佐倉の腹を刺して刺して刺して刺した。 佐倉の足が砕け上半身が後ろに崩れ落ちる。 ぴくぴく震えている。 「ねえ」 リエがオレを振り返った。 「ねえコータ」 いつものリエ、いつもの声。 でも、これは現実。のはずだ。 「コータもころし……」 「きゃぁああぁあぁああああぁああああぁぁぁぁあぁあ」 鼓膜が激しく震える。 リエのむこうの佐倉のむこう。 真っ赤に口をあけて女生徒が叫んでいる。 オレはリエの手をつかむと走り出した。 廊下を全力で駆け抜ける。 廊下、階段、廊下、廊下、渡り廊下、廊下。 リエの声が聞こえた気がした。 明らかに自分の限界を超えたスピードで走り抜ける。 後ろに足音を感じる。 追われてるのか? さらにスピードをあげる。 今タイムを計ってたら絶対自己新は確実だな。 そんな場違いなことを考えてみる。 場違い? 場違いなのか? 下を見る。 すごい速さで後ろに飛んでいく地面。 前を見る。 体育の竹中がストップウオッチを持って立っている。 そのまま駆け抜ける。 「よおし。峰道、すごいタイムだぞ」 5,6歩そのまま進み次第に歩調を整える。 心臓がぶっ飛びそうだ。 ぜえっぜえっと荒い呼吸を繰りかえす。 体操服がべったりとはりついて気分が悪い。 「かぁっ、お前、すっげえ速かった。今日は完敗だ」 後ろから走ってきた男がぶつかるように肩に手を回す。 「なんか鬼気迫る走りっぷりだったぜ」 陸上部の宮本だ。 「オレ、そんなに速かったか?」 宮本は速い。うちのクラスではダントツに速い。 オレも遅くはないが宮本に勝ったことなんて一度もなかった。 「抜かれてからは全然追いつける気がしなかったかんな あぁ、くそっ。さっきのは速すぎだって。いや、マジで」 本気で悔しがってるところを見るとウソではないようだ。 「まぁ、おれは400が専門だからな。 こんどは1500じゃなくて400で勝負しようぜ」 「いや、遠慮しとく」 あんな走り方は二度とごめんだ。 酸欠で目の前がやけに白っぽい。頭がくらくらする。 まだ心臓がドキドキしてるのは全力疾走のせいだけじゃない。 「おい」 突然、宮本が呼んだ。 「あんだよ」 「あそこ、見てみろよ」 にやつく宮本がさした指の先をたどる。 表情がふっと緩むのを感じる。 本校舎3階の真ん中らへんの窓からリエが手を振っていた。 そういえば女子は自習とか言ってたな。 軽く手を振り返す。 さっきのはやっぱり夢だったのだろう。 リエを見るとココロが自然と癒されていくのを感じる。 オレは守らないといけない。 そのためにはリエと一緒に堕ちることも必要なのかもしれない。 「けっ。オレはアウトオブ眼中。ってか」 堕ちる? なぜ堕ちる必要があるんだ? リエは堕ちてなんていない。 夢がオレの意識を侵食してる? 違う。そんなはずない。 オレはオレのはずだ。 でも…… ここからオレはどうなっていくんだ? どうすればいい? リエ。 「で、お前らが5時間目に騒いどったそうだが」 さあ、どっちだ。夢か現実か。 生徒指導室。 体育のとき手を振りあっていたのを佐倉に見られた。 オレの隣にはリエ。 机をはさんで佐倉。 やけに赤い部屋、スプレーで吹き付けたような。 リエの顔も佐倉の顔も真っ赤に染まっている。 オレの顔もきっとそうだ。 「騒いでません」 静かな部屋に声がやたらと響く。 「そうですよ。私達騒いでなんかいません」 嫌がらせかよ、佐倉? なんなんだ、佐倉? いったいオレ達のなにが気にいらない? 「嘘をいうな」 押さえつけるような言い方。 「嘘じゃねえよ」 思わず机を蹴り上げそうになる。 「体育の授業中に二人で何かしとっただろう」 なにをできるってんだよ。 オレは運動場、リエは3階の視聴覚室にいた。 「あれはちょっと手を振ってただけで」 「ほらみろ、やっぱり」 「なにがやっぱりですか? でもオレ達、騒いでなんかいません」 「いいや何か言ってたはずだ」 オレ達が何か言ってた? 言ってない。 「3階と運動場で話をしとったら、さぞかしうるさかったろうな」 このやけに絡む口調。夢か。 「話なんかしてねえって」 「してません」 「いや、してたね」 なにを言ってるんだ、こいつは。 なんでこんなにも目の敵にするんだ。 頭の芯がすうっと凍り付いていく。 夢だ。いつもの夢だ。 「してません。 自習してたみんなに聞いてもらえばわかると思います」 「残念ながら斎宮がうるさかったという話をもう聞いてるんだ」 嘘だ。 現実ならともかく、これは夢だ。 すぐにわかるぞ。 お前はオレたちを怒らせて自分を殺させるつもりだ。 そうなんだろう? 「なにを笑ってるんだ!」 オレは薄く笑っていたらしい。 ばん。 佐倉が机を平手で叩く。 窓ガラスがびりびりと震えるほど大きな音がした。 「先生、リエのこと狙ってるらしいですね」 部屋の空気が一瞬にして変わった。 沈黙。沈黙。沈黙。 ちらと横目でリエの様子をうかがう。 リエの目が大きく見開いてオレの顔を凝視していた。。 何? 何を言うの、コータ。 「な、何をいっとるんだ」 「みんな言ってますよ? 聞いてません?」 「こ、コータ?」 大丈夫。心配するなリエ。 これは夢なんだ。 佐倉の好きなようにはさせない。 お前に手は汚させない。 「ま、まったくもってくだらん。 なにを、ば、馬鹿なことをいっとるんだ」 嘘ならなんでそんなに動揺してんだよ。 いつまでもこんなくだらねえ夢にふりまわされっかよ。 「なぁ、もう終わりにしよう」 佐倉もリエもわけがわからないといった表情でオレを見る。 「なあ、佐倉」 「お、お前。教師にむかってなんて口の……」 「お前、一週間前の夜の10時ごろどこで何してた?」 佐倉の顔が固まる。 目が泳ぐ。 思い出そうとしているらしい。 「ホテルにいってなかったか?」 オレは今、やっと気づいた。 あの光景は夢だったんだ。 「あ……」 佐倉がリエに目をやった。 夢の中の問題は夢の中で解決するさ。 「どうなんだ?」 「な、何を……」 夢の中で佐倉は無理にリエをホテルに連れ込んだ。 現実でリエを手に入れられなかったから。 それをオレが夢の中で見た。 リエは佐倉をオレに裁いてほしかった。 リエはオレに佐倉をころしてほしがっていた。 「見たんだよ。佐倉」 「う……」 佐倉の顔からみるみる血の気が引いていく。 リエを見つめながらあうあうとなにかうめいていた。 リエは。 まったく感情がないような顔で座っている。 顔の色が紙のように白い。 「それでも、『くだらない噂』だって言い張るつもりか?」 もう詰んでるんだ。佐倉。 お前はここで消える。 リエはお前には渡さない。オレが守る。 「さ、」 佐倉が何か言った。 「なんだ?」 「斎宮。お前、喋ったのか?」 びく。とリエの肩が震えた。 「お前、絶対言うなっていったのに。お前」 「わ、私。違う。そんな。ウソ」 オレと佐倉の顔を見比べて目をふせる。 もういい。 もうたくさんだ。そうだろう、リエ。 「終わらそう、こんなくだらないこと」 夢のパターンだと。 机の中か……何も見つからない。 ポケット中……重い塊。ほらあった。 ゆっくりそれを握って引き出す。 「……峰道?」 「コータ?」 それは黒光りする拳銃だった。 ほら、やっぱり夢だ。 こんなトコロに拳銃なんて出てくるはずないだろう。 今日のために違法ネットで購入したなんてはずもない。 これは夢だ。 だから、いきなりポケットに拳銃が出現した。 「こーた、それ……」 リエ。こんどこそオレがけりをつけてやる。 「み、みねみち」 むぃ、むぃぬぅえむぃとぅい。 耳にまとわりつく雑音。 「こーた」 わかってるリエ。心配しなくても。 「よせ、みねみち」 ゆぅおすぅえ、むぃぬぅえむぅとぅい。 こいつは悪夢だ。 オレとリエの間に入り込む有害な幻だ。 今度は先にオレがやる。 リエのことは俺が守る。リエは汚させない。 「こーた、やめて」 「やめてくれ、みねみち」 「ねえ、こーた」 「みねみち」 「こーた」 「みねみち」 「こーた」 「こーた」 「こーた」 「こーた」 雑音。雑音。雑音。 ふいに音声がクリアになる。 リエの声。 「ねえ、コータ」 なんだ、リエ? 「ころして」 ああ、そうする。 ここで終わらせるよ。 オレ達の邪魔をする奴は消す。 これでオレ達ずっと一緒にいられる。 そうだろ、リエ。 「ころして、コータ」 リエが笑ってる。 いつもの笑顔で。 オレの一番好きな笑顔で。 オレは。 ゆっくりと。 引き金を。 引いた。 Bang |